「起業してみたけど、社会保険についてわからない。」
「いつか起業してみたいけど、法人役員/経営者の社会保険ってどうするんだろう・・・」
事業の種はあるからと起業してみたはいいけど、会社には事業以外のお仕事がたくさんあって時間がない・・・( ;ㅿ; )
となっている方も多いのではないでしょうか。
私は2023年9月に起業したばかりの経営者ですが、
「いままでは役員報酬0円だったけど、事業の売上も立ってきたのでそろそろ役員報酬を出せるかも」とワクワクしていたのですが、その前に立ち塞がっていた社会保険という壁に震えました。。。
社会保険は会社員にも関係が浅くない制度。
本来なら会社員のうちに勉強しておくべきなのかもしれませんが、当時はまったく興味がなく基礎知識がなかったため、このタイミングで勉強し直しました。
この記事は、もし同じような状況の法人役員や経営者、いつか起業したいと思っている方のためにまとめたものです:)
一緒に勉強して、社会保険をさくっと導入しましょう!
またちょっとした節税のコツも書いてありますので、参考にしてもらえればと思います。
社会保険料の基礎
まず初めに社会保険料とはなんなのかの基礎の部分を解説します。
社会保険料とは
毎月、会社員の給料から天引きされる
健康保険料、介護保険料(被保険者が40歳以上の場合のみ徴収)、厚生年金保険料、雇用保険、労災保険の総称です。
税金(所得税や住民税)とは異なるものになります。
上3つは法人役員/経営者も社員も加入必須で、下2つは社員のみ必須となります。
※正社員のみ
「標準報酬月額×各保険料率」の計算式で算出
各保険料率は下記のルールによって決まるので、各個人の努力では変えられない。変えられる可能性があるのは「標準報酬月額」の部分。
- 健康保険・介護保険料率
- 標準報酬月額 × 会社が属する健康保険組合によって決まる
- 厚生年金保険料率
- 標準報酬月額 × 国内一律で決まっている
標準報酬月額とは
従業員(被保険者)が事業主から受ける給料などの報酬の月額を、区切りのよい幅で区分した等級で表したもの。
社会保険料を決める際の基準になる金額です。
下記の図がよくある保険料額表になります。細かくは自分が所属している・所属する予定の社会保険と都道府県によって変わりますので、正確に知りたい方は調べてみてください:)
- 左から2番めの列が「標準報酬 月額」
- 「標準報酬 月額」が所属する等級によって社会保険料が決めらる
- 社会保険は基本会社と半分ずつ出すため、折半額が毎月会社員の給料から引かれる額
「標準報酬月額」が決まるタイミング
標準報酬月額が決まるタイミングは、大きく分けて「入社時」「定時決定(年1回)」「随時改定等(何か大きな変更があった場合)」の3つがあります。
入社時
新規に被保険者の資格を取得した人。
転職や起業等で新たに会社の保険に入る場合です。
社会保険の手続きのタイミングではまだ給料が支払われていないので、その人が入社後に「受け取るであろう」給与額を元に決定します。
資格取得時の決定
新規に被保険者の資格を取得した人の標準報酬月額は、次の方法によって決めます。
a. 月給・週給など一定の期間によって定められている報酬については、その報酬の額を月額に換算した額
b. 日給・時間給・出来高給・請負給などの報酬については、その事業所で前月に同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の平均額
c. aまたはbの方法で計算することのできないときは、資格取得の月前1か月間に同じ地方で同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の額
d. aまたはbまでの2つ以上に該当する報酬を受けている場合には、それぞれの方法により算定した額の合計額
関係条文 健康保険法 第42条
定時決定
入社2年め以降の場合です。
基本的に毎年1回定期的に標準報酬月額を決定します。
標準月額は 4月5月6月に実際に支払われた給与 を合算しを3で割った額が報酬月額となります。
この標準月額により、その年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額を決定します。17日未満の月がある場合は、その月を除いた残りの月の報酬で算定します。3カ月間とも17日未満の場合は、従前の報酬月額で算定します。
平成18年7月1日より、報酬の支払基礎日数が20日以上から17日以上に改正されます。詳しくは、こちらをご覧ください。
よって、平成18年度以降の定時決定(算定基礎届)については、4月・5月・6月の報酬の支払基礎日数に17日未満の月がある場合には、その月を除いて決定します。
随時改定
育児休業等を終了など、給料に大きな変更があった場合。
基本的に標準報酬月額が変更になるのは「定時決定」の年1回ですが、年の途中で大幅に給与額が変更(昇給や降給)したり、産前産後休業・育児休業等の終了後に給与が下がった場合で一定の要件を満たす時には、標準報酬月額を見直す場合があります。
実際に支払われた給料に含まれるもの
標準報酬月額を算定するにあたって、基本的には、基本給、役員報酬、家族手当、住宅手当、通勤手当、賞与、その他どんな名称であっても、被保険者が労務の対償として受けるものはすべて標準報酬月額の計算に含みます。ただし、出産祝い金・結婚祝い金や御香典といった慶弔金品や永年勤続表彰の祝い金など臨時に受けるものや、年3回以下の賞与は標準報酬月額の計算には含まれません。
会社役員/経営者と社会保険
法人の場合、代表取締役、取締役等の役員の場合、社会保険はどうなるのでしょうか?
役員と会社員の社会保険適用についての違いは?
一般的に言われている社会保険の加入要件については役員も基本同じ考え方ですが、役員には「労働時間」や「賃金」といった取り扱いがないため、その点が異なります。報酬月額については期の始めに決めた役員報酬です。
会社役員は社会保険に入らないといけないの?
役員と会社員は社会保険の加入要件が以下のように異なります。
- 報酬を受けていれば加入する必要がある
- 役員報酬がない、または少額で社会保険料を控除できないような額の場合は社会保険に加入しなくてもよい場合があります。
- 常勤役員の場合は加入が必須だが、非常勤役員の場合は加入に判断が必要になる
- 社員から役員に昇進した場合には必要な手続きはないが、外部から役員に就任した場合には社会保険加入手続きが必要になる
社会保険料が納付できない低額な報酬って具体的にいくら?
健康保険法や厚生年金保険法には、「会社から報酬を受け取っている者は社会保険に加入しなければならない」と書いてあるため「社会保険へ加入が必要な最低額は〇〇円から」等の設定はされていません。
上記、令和6年3月分~ 適用 ・厚生年金保険料率の表を見ると、
標準報酬月額の最低額は、
健康保険料 : 63,000円以下で月額2,949.3円
厚生年金保険料 : 101,000円以下で月額8,052.00円
と設定されているため、社会保険料に加入すると合計11,001円/月は支払う必要があります。
そのため、月額報酬が11,000円を下回っている場合は、支払わなくていい可能性が高いと考えらます。
ただし、日本年金機構が公開する疑義照会回答(厚生年金保険適用)には、以下の通り明記されているため、一度加入した場合は低額な報酬であったとしても支払う必要がありそうです。
役員については、ご照会の事例のように経営状況に応じて、給料を下げる例は多く、このような場合は今後支払われる見込みがあり、一時的であると考えられるため、低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない
日本年金機構 疑義照会回答(厚生年金保険適用)
裏技級?!社会保険を押さえて、報酬を得る方法
ここからは合法的に社会保険料を節税をする裏技コーナーです。
一言で言うと、事前確定届出給与を使って、標準報酬月額を抑え節税する方法です。
内容的にはOKなのですが、細かいルールや状況によって承認されるかが分かれるところなので、詳しくは税理士に相談してみてください:)
前提知識:役員報酬、3種類の支払い方
役員報酬には3種類の支払い方法があります。
それぞれのルールを満たす場合にのみ、損金算入が可能です。この3種類の支払い方法について説明します。
定期同額給与
事業年度の最初に役員報酬を決め、事業年度の間、毎月一定額の役員報酬を支払う方法
事前確定届出給与 → 重要
事前に税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出した上で支払う役員報酬。イメージ的にはボーナスに近い。
事前確定届出給与に関する届出書とは、いつ、だれに、どのくらいの金額を支払うかを明記したもの。
事前確定届出給与の届出の提出期限は、「事前確定届出給与を定めた株主総会などの決議をした日または職務を開始する日から1か月以内」「会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4か月以内」のいずれか早い方と定められています。また、新規に会社を設立した場合には、設立日から2か月以内が提出期限となります。
業績連動給与
株式上場会社の業績や株価に連動して支払われる役員報酬
業績を判断するための根拠が有価証券報告書に記載されているといった要件あり。
社会保険を押さえて報酬を得るには上限額をうまく使う
社会保険料を押さえて報酬を得るには事前確定届出給与を使う
定期同額給与と事前確定届出給与の違いはこちらの図を見てください。
POINT
- 役員報酬の約9.84%を健康保険料、約18.3%を厚生年金保険料として納付するが、その金額には上限が設定されている
- 健康保険料:どれだけ支払っても、上限は573万円として保険料を計算。賞与が573万円を超えると保険料はかからない
- 厚生年金保険料:どれだけ支払っても、上限は150万円として保険料を計算。賞与が150万円を超えると保険料がかからない
- 上限を超えた役員報酬には社会保険料がかからない。上限金額は定期同額給与よりも事前確定届出給与の方が低くなっている
上限を超えた金額には社会保険料がかからないことを利用して、月給を低い金額にし、賞与(事前確定届出給与)を上限以上に設定することで、社会保険料の引き下げを行うことが可能。
さらに、月額報酬を11,000円を下回る額に設定して、事前確定届出給与を使ったら?(以下略)
ただし、国も黙ってみているわけではなく、下記のように対策を打っているため、この点要注意です。
このスキームを使って、賞与を多く払い、社会保険料を少なくする一方で、実際の支払いは月給にオンしているケースが散見されました。処理上は賞与。だけど、実際の支払いは月給にオン(分割払い)されており、実態としては月給を支給しているのと変わらないケースです。
これを受け、年管管発0918第5号が、厚生労働省より発表され、月給にオンするような場合は、賞与ではなく月給として社会保険料計算もしてくださいね、ということになりました。賞与とか仮装して月給を払っているようなケースは認めないわけです。
事前確定届出給与で、社会保険料を最低限にするスキームは、経営的にはマイナス
また、弊社が契約する税理士さんにも確認したとこと下記とのことでした。
ここら辺は、グレーゾンになるため、詳しくは税理士に相談した方が良さそうですね
認められないリスクがある
あくまで毎月の報酬と比較し社会通念上相応な金額での支給が求められています
上手く使うと良い制度ですが、やりすぎないようにすることが大切ですね
事前確定届出給与のわかりやすい説明はこちらを参考にしてください:)
社会保険の基礎を学び、ちょうどよく社会保険料を払っていきましょう:)
以上、最後まで読んでくださってありがとうございました